山口県萩市平安古町、橋本川のほとりに建つ旧田中別邸。第26代内閣総理大臣を務めた田中義一が所有した別邸で、邸内には田中ゆかりの資料とともに、近代和風建築の端正な意匠が残されています。川に向かって開く二階の座敷、光を通すガラス戸の廊下、庭を囲む建物の配置は、萩の水辺と暮らしの距離を静かに伝えます。

田中義一と、夏みかんの歴史を伝える場所
田中義一は萩出身の陸軍軍人・政治家で、1927年に内閣総理大臣となりました。この地には明治期、萩の士族救済のため夏みかん栽培を奨励した小幡高政も居住していました。隣接するかんきつ公園とあわせて、近代の萩を支えた産業と人物の記憶をたどることができます。



五松閣に残る、近代和風の座敷
五松閣の客間は、床の間と違い棚、畳、障子が端正に組み合わされた和の空間です。なかでも梅の古木を用いた床柱は、自然のかたちを意匠として生かす数寄屋的な感覚を伝えます。二階の座敷は視線が遠くまで抜け、別邸らしい開放感を備えています。




ガラス戸の廊下と、橋本川の眺望
川側の開口部にはガラス戸が連なり、廊下を歩く間も水辺の明るさが寄り添います。二階の窓から見下ろす橋本川は、この建物を特徴づける景観の一つです。住宅の内部に川景を取り込むことで、部屋の広さを越えた伸びやかな奥行きが生まれています。



中庭に重なる、暮らしの痕跡
中庭には井戸が残り、建物の奥には五右衛門風呂も見られます。格式ある客間だけでなく、水を汲み、湯を沸かした生活の場所まで残されていることが、この別邸を立体的に感じさせます。




旧田中別邸の利用案内
開館時間は9時から17時まで、休館日はなく通年公開されています。観覧料は100円で、小学生未満は無料です。萩循環まぁーるバス西回り「平安古南団地前」バス停から徒歩約3分。隣接するかんきつ公園とあわせて巡ると、建築だけでなく萩の近代史と風景を一続きに楽しめます。
※利用案内は2026年10月7日時点の萩市観光協会公式サイトを参照しています。来館前に最新情報をご確認ください。